魔法使いの職探し

 魔法使いと出会ったのは職安の隅にある喫煙室だった。
 タバコをくわえたあとに、ライターを忘れたことに気がついた僕は、煙をむさぼっているガス室の中の面子を見渡した。どいつも職探しがうまくいってないのか、目が血走っていて、声をかける雰囲気ではない。ふと隣を見たら、ひょろりとした若い男が、静かにタバコを吸っていた。
「悪いけど、火を貸してくれないか」
 若い男は、人差し指を突き出した。何の冗談かと思っていたら、僕のタバコにはもう火がついていた。
「ありがとう」
 と、僕は礼を言った。
「このくらい、おやすいごようさ」
 と、魔法使いは言った。
「だけど、こんなもの職探しには何の役にもたちやしない」
 魔法使いは、かわいそうなくらいしょげていた。口から吐き出す煙まで力なく足元に落ちていく。
「でも、君、魔法使いなんだろ? 何のとりえもない僕よりましだよ」
 魔法使いは悲しそうに首を振った。
「空が飛べると言ったら、夜中に出発して朝までに大量の荷物をこの島の南端まで届けろ、それができないならうちはいらない、って言われるし、火や雷をおこせても、火炎放射器や巨大な機械の前では役立たずだ。それどころか、危険人物扱いで、門前払いされる始末。見世物になるってのも考えたけど、いまどき魔法なんて、子供だって見向きもしない」
「せっかくの才能がもったいない」
 と、僕は自分の職がないのを忘れて、心底彼を気の毒に思った。
「どこかに君の能力が生かせる場所はないだろうか。機械や最新技術の出番がない、人の力で勝負するしかないような場所があればいいんだけど」
 僕と魔法使いは黙って考えこんだ。僕がタバコをくわえるたびに、彼が指で火をつけてくれた。しかし、3本吸い終わっても、よいアイデアは出てこなかった。
「思いついたら教えてくれ、俺も君に合いそうな仕事があったら連絡するから」
 と、魔法使いは言って、僕たちは連絡先を交換して別れた。

 1ヵ月後、魔法使いから連絡が来た。
「君のヒントのおかげで職にありつけたよ。君が、まだ探しているなら、何でも好きな仕事を用意してやるよ?」
 魔法使いの口調は自信に満ち溢れていた。そして、ずいぶん気前がいい。この一ヶ月で何があったのだろう。
「いったい君は今、何をやってるんだ?」
 僕の質問に、
「女社長の愛人」
 と、魔法使いは答えた。<了>

(初出:ザ・インタビューズ