チャトラ(お題:「祭り」「トラネコ」「紅葉」)

「じゃあ、ここでチャトラのためにお祭りをしよう」
 と、順君は静かに言った。
「チャトラが死んだのに、お祭りなんて気分じゃない」
 あたしはしゃくりあげながら、順君をにらんだ。
「順君は、チャトラが死んで嬉しいの?」
「悲しいよ。だからお祭りをするんじゃないか」
 と、順君は言った。
 ずっと一緒に暮らしていたトラネコのチャトラがいなくなったのは、昨日の夜だった。ご飯の時間になっても帰ってこなかったし、朝になっても皿の中のご飯は減ってなかった。チャトラが遠出して3日くらい帰ってこないことは、よくあることだったけれど、あたしは何だかそのとき妙に胸騒ぎがして、家の周りを必死で探した。順君も呼び出して、チャトラの名前を呼んで、町中を一緒に探した。
 チャトラはどこにでもいる雑種の猫だから、別の猫と何度も間違えそうになった。でも、順君がそのたびに、あれはチャトラじゃないよ、と言ってくれた。本当にそうだった。順君が止めてくれなかったら、知らない猫を抱えて帰るくらい、あたしは混乱していた。
 家の軒下で固くなっているチャトラを見つけたのは、順君だった。順君は、固く冷たくなっているチャトラをタオルでくるむと抱え上げた。
 あたしたちは無言のまま、近くの山に入って、木洩れ日の当たる柔らかな土の場所にチャトラを埋めた。いつも熱心に整えていた毛皮が泥で汚れているのを見ると、あたしはついに泣いてしまった。土をかけるのも順君が1人でやった。丁寧に、ひとすくいずつ、土がかぶさってチャトラが見えなくなるのを、あたしは泣きながら見守った。  
「お祭りは、楽しく騒ぐときだけじゃなくて、死んだ人の魂をとむらうためにもするんだって、おじいちゃんが言ってた」
 とむらう、という聞きなれない言葉が、あたしの胸の中にやさしくしみこんだ。
「だから、チャトラのために僕たちがここでお祭りをしよう」
 あたしは順君の手をにぎって、しずかにゆっくりとうなずいた。
 それから二人で手分けして、きれいな石と木の実をあつめた。花をつんできてお供えした。歌をうたおう、とあたしが言って、学校で習った歌をうたった。チャトラが静かに天国に行けますようにと思って一生懸命に歌った。なんだかお祭りっぽくない歌だったけれど、順君は何も言わなかった。
 夕日が目をつきさした。見上げると、真っ赤な紅葉があたしたちを包んでいた。まるで火の中につつまれているようだと、あたしは思った。 <了>