レポ「三島由紀夫を読む会&超短編を楽しむ会」

昨日は「三島由紀夫を読む会&超短編を楽しむ会」でした。

先輩作家の森山東さんのリードとフォローのもと、心ゆくまで楽しみました。ああ、小説の話をするのって楽しい!!三島はやっぱり天才だ…。三島のすごさは自分が書くようになるとよく分かる。簡潔で的確で詩的な描写。この三つが同時にそろうってすごい。その文のうまさの秘密が圧倒的な語彙力と論理を組み立てる力にある、と聞いて、なるほどなあ…と開眼した思いでした。そうなんです、語彙力ってやっぱり必要なんです。類語辞典見ながらあわあわしてる場合じゃないんです。そして、文章のよさを決めるのは「品」である。それには古典を読むしかない。というのもよかったな。そうだなあ。本当に。昔の文豪の文章は「職人の手仕事」って感じがする。今は既製品を買ってきて組み合わせました、みたいな文章がいっぱいある。

たくさんの言葉の中から的確なものをすいすい選んで、時にははっとするような組み合わせを作って遊んでみたり。そんなレベルの高い言葉使いになりたい!と思いました。しかし、課題図書の「スタア」は本当に面白かった。映画俳優が主人公のなかなかシニカルなストーリー。面白すぎてストーリーばっかりに目がいってたので、森山さんの文章の分析で、はっとさせられどうしでした。まるで面白い映画を一本見たような時間。本当に面白い評論ってのは、わくわくするエンターテイメントでもあるんだなと思った。謎解きというか宝探しというか。世界が開けていく感じ、解像度が深まっていく感じが面白かった。他の人の感想も面白かった。読書会というものを初めて参加したのだけど、これも小説の面白さを伝えるひとつの方法だなと思った。作品の選び方と参加メンバーにかかっているかもしれない。誰か一人でもその作品について深く読んでる人がいれば、遠くまでいける。


「スタア」はこの短編集に収録されています。

第二部の超短編を楽しむ会では、名前を記さずプリントしてきた500字原稿をみんなに配り、その中でそれぞれ順位をつけてもらい、多数決で一番面白い作品を決めました。意外な人が作者だったりしてそれが面白かったです。いろんな物語があった。500字だと読むのも早いし、全員分朗読してもそれほど時間はかからない。そういう意味で合評向けかも。そして、一位いただきました。びっくり。500字って文字数、初めて書いたけどなかなか面白いです。カフェ・月と六ペンスで売っている葉書小説十六夜サンドイッチ小説が600字くらいで、これは名刺サイズにも納まる文字数として作ったのだけど、500字だったらもっといろいろできそうですね。

次回もまたできたらなあと思ってますので、よろしくお願いします。

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超短編(500文字小説)】殻
 
 庭にカタツムリがいる、と妻の嬉しそうな声が聞こえてきた。
「すごく大きいの。ねえ、見に来てよ」
 すごく大きいなら、なおさら行くものか。気持ちが悪い。俺は新聞を顔の前に広げ、妻の声を無視し続ける。
「本当に大きいのよ。なんだかこの殻に住めちゃいそうなくらい」
 バカバカしさを通りこして、俺は腹が立ってくる。
「じゃあ、住んだら?」
 それっきり妻の声は聞こえなくなった。新聞をそっと下ろしてみると、妻はキッチンで夕飯を作りはじめていた。
 その日の夕食はカタツムリだった。焼きカタツムリ。カタツムリの煮物。カタツムリのバター炒め。弾力も色もエリンギに似ている。これはエリンギだと自分に言い聞かせながら咀嚼する。
「まだまだあるわよ。オイル漬けにしたから当分食べられるわ」
「殻はどうしたんだ」
 と、俺はきいた。
「ほら、これよ。似合う?」
 巨大なカタツムリの殻を背負って微笑む妻を見つめる。俺はきっと試されている。ここで答え方を間違うときっと大変なことが起こってしまうのだ。
「愛してるよ」
 と、俺は言ってみた。
「そんなことはきいてないわ」
 妻はつまらなさそうにため息をつくと、足からするすると殻の中に入っていった。
〈了〉