ルール

 いいことしたらいいことが返ってくるし、悪いことをしたら悪いことが返ってくる。子供のときから、学校でも家でもそんなふうに言われて育った気がする。昔話も物語もみんな、いいことしたらいいことが返ってくるし、悪いことをしたら悪いことが返ってくるのですよ。だからいいことしましょうね、って言っていた。
 でも、長く生きてるうちに、あてはまらないことがたくさん出てくる。何で悪いことしてる人がいい目を見てるんだろう、とか。何も悪いことをしていないのに、こんなひどい目にあうんだろう、とか。もしかしたら、あてはまらないことのほうが多いんじゃないか。
 前世やあの世のことは分からないけれど、たぶんこれって人間が決めたルールのようなもので、これを守ろうとしている人たちの間でだけ、この法則は維持されてるんじゃないか、と吉本隆明さんのヨブ記についての話を聞いて気づいた。
 実際に、いいことをしたらいいことが返ってきて、悪いことをしたら悪いことが返ることもある。でもこれは、決めたルールを周りのみんなが守って暮らしているからで、ルールを守る気のない相手には、それが通用しない。たとえば、自然とか。無差別殺人犯とか。人を騙して利益を得ようとする人たちとか。ルールを守る気のないものたちが、罪のない人たちを、ひどい目に合わせる。
 ルールを守る気がない相手に「どうして何も悪いことをしてないのに、こんなことするんだ」って問い詰めてもしょうがない。戦わねば。もっぱらの仮想敵は地震です。人間なめんなよって思ってます。いや、わたしひとりじゃ負けるけど。今までの歴史とか祖先のこととかあれこれ振り返りながら、人間なめんなよって思うようにしています。
 いいことしたらいいことが返ってくるし、悪いことをしたら悪いことが返ってくるというルールは、美しいとわたしは思う。現実もそうあってほしいし、そうなるはずだと思いながら、物語をつむぎ続けます。