伝説のラーメン

 伝説のラーメンが岩倉にあると聞いて、俺は叡山電車に乗ってやってきた。
手がかりは一枚の地図と、岩倉という字だけだ。なんだか山の中に赤い点が表示されていて、そこに岩倉と書いてあるのだ。
 大体伝説という言葉からしてうさんくさい。伝説のラーメン? ラーメン伝説?
てか、お前さ、なんだよ伝説って、俺が聞くと、伝説は伝説だよ。誰もたどり着けないから伝説なんだ、と、友人Mは言った。地図を手に入れただけでも超貴重なんだから。俺、ちょっと探したけどよくわからなかったから、 お前行ってきてよ、と地図を託された。
 で、そのラーメンはおいしいのか、と俺が聞くと、そりゃ伝説だからな、とMが断言したので、俺は伝説のラーメンを探しにここまでやってきたわけだ。
しかし、近くまで来ても何の手がかりもない。通りすがりの住民に聞いても、首をひねられてさあと言われるし、どころか、不審者あつかいだ。
 求めれば得られんとかMは言った。てか、でもさ、そもそもお前さ、求めたけど見つからなかったんだろう。言ってること矛盾してないか? よく考えたら、Mは、伝説だからなとは言ったけれど、おいしいとはひとことも言わなかったじゃないか。
 だまされた、と俺は思った。Mに電話しようと思ったら圏外だった。メールが一件、Mからだった。見つかったら連れてってね、だった。他力本願すぎる。
 随分長い間歩いている。だんだん本格的にさみしくなってきた。人ひとり見当たらない。田んぼばかりだと思ってあるいていたのに、いつのまにか山の中に入っていた。強い風が吹いてきた。目にゴミが入る。何だか本当にこんなところにラーメン屋があるのか、というかそもそも、俺はここまでしてラーメンが食べたいのか。何のために山の中を歩いているのか分からなくなってきた。
 足元はぬかるんでいるし、汗は出るし、やぶ蚊は飛んでいるし、こんな状態でラーメンを食べてもおいしいわけがない。
 ばかばかしい、もう帰ろう、と思った瞬間、ごうっと強い風が吹いた。熱風だった。ぱちぱちと音が聞こえて、あたりは火に包まれていた。山火事だった。とんでもない。かちかち山かよ。俺は、避難できる場所を探して、あたりを見回した。風が強いからあっという間に火に包まれてしまう。
 そのとき、山肌に岩と岩の隙間をみつけた。人がひとり通れそうな隙間だった。覗くと中が空洞になっていた。その中なら火を逃れられるかもしれない。その中にオレは体を横に曲げながら、滑り込ませた。
 中はひんやりとして涼しかった。外は火でごうごうと燃えていた。火の明るさで中の様子が見えた。何だか、大きな袋がつみあがっていて、倉庫のようだった。何でこんなところに倉庫があるんだろう。一体何が入っているのだろう。俺は、袋をやぶって取り出してみた。
 レトルトの袋ラーメンだった。
 てか、岩の倉庫に袋ラーメン。
 岩の倉? 岩倉。
 俺は作者の強引なオチにためいきをついた。岩倉のラーメン? よし、それは許そう。
 で、どこが伝説なんだ。俺は袋ラーメンを裏返した。不燃性と書いてあった。
業界初!なんと、このラーメンは燃えません!非常食にぴったりです。
 俺は、倉中に積みあがった袋を見上げると、片端からそれを岩の外に投げ出した。燃えないラーメンは灰になることなく、炎の中でいつまでもビニール袋をてかてかと輝かせていた。

<了>

(初出:第1回N-1グランプリ/お題「灰」「ラーメン」「岩倉」)