展示鑑賞記

 二つ展示を見てきました。

「旦那 is ニート」 キリコ
2010年3月1日[月] - 3月6日[土]
Port Gallery T (大阪・肥後橋
12:00〜19:00 (土曜18:00まで)
http://www.portgalleryt.com/exhibitions/kirico.html

 アラーキーが選ぶキャノン写真新世紀の佳作受賞作品を、10分間の映像で魅せる展示。8年付き合って結婚し、仕事に出かけていると思ったら実は離職していて、自分が働きに出たけどどうにもならなくなって、まだ好きなのに、ままならない、離婚までの軌跡をつづった写真と映像作品。何気ない(むしろ、だらしないくらい身内の)スナップの数々。そのシャッターを押した瞬間はアートでも作品でも何でもないのだけども、離婚するなんて思いもしなかったという瞬間の写真を、離婚したというエピソードとともに見せると彼女が決めた瞬間に、その写真はアートになった。働かない旦那なんて、よくある話かもしれない。離婚だってもうめずらしい出来事じゃない。でも「よくある話」の当事者は、人生がひっくりかえるような一大事で、見ていると胸が痛くて痛くてその当事者になれるような展示だった。視線が優しくて冷たかった。過去を否定していないけれど、でも溺れてもいないし、言い訳にもしない、そんな目。
「芸術は人を傷つけていいんですか。俺は世間のさらしものになるほど器は大きくない。ほんまに嫌なんよ」
 映像の最後に元旦那からのメールが映された。
 展示に出てくる「旦那」はすべて顔にモザイクが入っていた。それが、彼女の答え。
 彼の言葉はそのまま、小説を書くわたしに突き刺さる。わたしも首を横に振ってノーと答えようと思った。たとえ、誰かを傷つけることをよしとすればその作品がより先鋭に“芸術的”になるとしても、わたしは人を傷つけないことを信条としようと思った。傷つける可能性があれば他の方法を選ぶ。他の方法を選んで同じ効果を成せばいい。そのままじゃないとできないだなんて、ただの敗北宣言だ。何でもありのルール無用だったら芸術家の腕の見せ所がないじゃない、ね。
 大阪の展示は明日までですが、4月13日から18日まで、東京の企画ギャラリー明るい部屋にて同じ内容の展示があるそうです。

ふたつめ。

鈴木啓文×ア・テール[ no picture ]
2010.03.01〜30 (水+16火休 11:30〜19:30)
a Terre (大阪府大阪市福島区福島7-10-9) http://aterre.jp/

 大阪福島のギャラリーカフェ、ア・テールで画家鈴木啓文さんの鉛筆画の展示見てきました。白くペンキで塗られた素敵なカフェギャラリーの壁に貼り付けられている素朴な絵。すごいとか、うまい、とか、おしゃれ、とかそういうんじゃない。すーっと魂を抜き出して脱色したような。見ていると、風景が、汚かったりきれいだったりつらかったり甘かったりするそういう光景が、全部一本の線になって、おだやかでシンプルなモノクロームの世界にほどけていくような感じがした。
 素敵なものを見ると描写したいという欲が沸いてくる。最近は携帯のカメラでぱしゃって撮ってその欲を満足させているけれど、一本の線でなぞっていったり、もしくは言葉をつづっていったり、しなくちゃと思いながら、カフェでアイスショコラいただきました。

 そんなこんなで大阪うろうろ。人の縁が導いてくれます。しかし、歩き疲れたよ。