家の話をしよう

 古い貸家に引っ越してきてからというもの、毎日修理業者が出入りしている。ずっと空き家だったらしく、住んでみないと分からなかったあれこれが発覚して、しかも元々が古いからすぐに直せるってわけじゃなくて、また出直しになったり。いろいろ分解しては調べてる業者さんを眺めながら、家というものはこうやって一つ一つ部品が合わさって出来ているのだなあと思ったりする毎日です。貸家だから修理料金は払わなくていいわけだけども、入居前に直しておいて欲しいよなあ。もう家賃払ってるんだもんなあ。そりゃあ、わたしは家にいますけども!これじゃあ仕事にならないじゃないか、家賃返せと管理会社にごねてみたり。…仕事ないけど。…仕事の素を作ってるんだ!せっせと!
 大家さんなんて土地と家持って、何にもせずに私腹肥やせていい身分だよねえ、とか思ったけど、ちらちらと漏れ聞こえる修理料金を耳にしながら、まあいろいろ大変だよなーとか思ったり。人が住んでいない家はすぐに死んじゃうんだなあと。仮死状態だった家に少しずつ命を吹き込んでいくような、そんな気分。
 一個前の日記で書いた建築がテーマの小説。最初は、美術館とか近代的なビルみたいなどどーんとしたものが「ザ・建築」って感じがして、写真集など眺めたり有名な建築家の本を読んだりしていたのだけども、なんというかわたしにとってのとっかかりが見えなくて、うんうんうなり、その次は「街」も建築のテーマだよなあと思いながら、うろうろきょろきょろ歩きまわってはみたけれどもピンと来なくて悩んでました。で、最近、引っ越して、家のことのあれこれに頭を悩ませているうちに、ああ家の話をしようかなあと思ったのでした。
 漠然と方向性が見えてきたら本屋と図書館へ。


「モダンリビング」
 発想を刺激する住宅、という特集名にずきゅんと来た。家が発想を刺激するんだ…。まあ、そうだよね。そのとおりだよね。じゃあ自分の部屋じゃ書けないからって外を放浪するわたしは、発想を刺激しない家に住んでるせいなんだよねえ…。新たに建てるだけじゃなくて、天井ひっぱがして、壁とっぱらって、骨組みだけ残して新たに好きな家にするリノベーションという概念を初めて知った。


「女ひとり思いどおりの家を建てる」
 ライターの著者が家関係の雑誌の仕事をしているうちに身分不相応と思いながらも建築家に依頼して自分ひとり用の家を建てたドキュメンタリー。家ってこうやって建てるんだ、こんな問題があるんだ、こんな人がかかわってくるんだと知らないことばかりで面白かった。正直、わたしは家を建てたいという人を見ると、車と庭付き一戸建てがステータスなのよね、借金背負ってかわいそう、わたしは軽やかに生きるのさ、とか誤解してましたが。そして、こんな人間が建築がテーマの小説を書くとかどうよ、って思ってましたが、著者を始め、彼女が取材した10人の女性たちもそういう見栄で家を建てたいわけじゃなく、自分のライフスタイルに合う家がなくて不便なまま我慢してたり、新境地を開くためだったりと、それぞれに切実な理由があって、ドラマがあるのでした。文章もうまくて面白かった。


「家の話をしよう」
 無印良品が発行してる本なので無印良品の商品のカタログかと思ったら全然そうじゃなかった。リノベーションという考え方をいろいろな角度から紹介してくれる本。実例もいっぱい。こちらはまだ読み中だけども、面白い本です。
 家についての考え方が大分変わってきた。家について考えるってことは自分の趣味や性格、日々の生活スタイル、どんな場所に住みたいか、その後の人生やパートナーのことまで思いを馳せるってことで、実際に建てられるかどうかは別としても、一度くらい自分の家を設計してみると、あれこれ明確になるかもしれないなあとか思ったりした。まあ、今はこの貸家を手なずけるのと、迫りつつある建築な小説の締め切りでいっぱいいっぱいですけどもさ。