平安神宮の神苑

彼女たちがいつも平安神宮行きを最後の日に残しておくのは、この神苑の花が洛中における最も美しい、最も見事な花であるからで、圓山公園の枝垂桜がすでに老い、年々に色褪せて行く今日では、まことにここの花を措いて京洛の春を代表するものはないと云ってよい。
(「細雪谷崎潤一郎より)

 細雪の主人公たちは芦屋に住んでいるのだけど、毎年花見だけは京都ですると決めていて、いつもお決まりのコースを姉妹そろってそぞろ歩くのでした。はて、そんな素晴らしい場所が平安神宮にあったかしら…。7年は住んでるのに知らないなあ、と「京の発言」のエッセイの取材のためにカメラを提げて平安神宮に行ってみました。
「神門をはいって大極殿を正面に見、西の廻廊から神苑に第一歩を踏み入れた所にある数株の紅枝垂」とある通りに、歩いてみると、なるほど庭がある。神社の外側をぐるりと取り囲む大きな庭らしい。こんなところがあったなんて、どうして今までスルーしてたんだろう…と、よくよく入り口を見ると入場料600円。うおお。600円か…!それは7年間スルーし続けるよなあ、と思いました。
 とはいえ、夏目漱石の「虞美人草」の取材のために、ロープウェー+ケーブルカーで比叡山の山頂まで行って命からがら下山した前回や、川端康成の「古都」の取材のために、吹雪の中バスで1時間かけて北山杉の里まで行った前々回に比べたら、自転車でさっさと行ける平安神宮で600円の入場料くらい、楽勝じゃないか! まあ桜はないけど…。
 というわけで、初めて平安神宮神苑に入ってきました。
 細雪の描写どおり、入った瞬間にたくさんの枝垂桜がある。いやあ、これは春は綺麗だろうなあ!600円の価値あるよ!でも、シーズンには人が多いんだろうなあ。
 わたしが入ったときは、特に紅葉の名所でもなく、平日だったので、人も少なかった。桜がなくても、鏡のように澄みきった池がたくさんあって、本当に美しい庭だった。広くて長く楽しめたし。600円惜しくないよ!




 一人、夕暮れ時の美しい庭を歩きながら、ときどき本を広げて描写を見比べたりした。
 京都を舞台にした作品を取り上げ、今の自分の心情と合わせて紡ぎあげるエッセイ。毎回毎回すごく悩むけれど、取り組むたびに体で文豪たちの世界を感じることが出来る。作品と京都が、もっともっと好きになる。
 ぬー、もうすぐ締め切りですがー。がんばれ、わたしー!