揚逸さんの講演会に行ってきた

 京都精華大が主催していた揚逸さんの講演会に行ってきました。外国人が日本語で書いた小説が初めて芥川賞を獲ったということで話題になった方。
 デビュー作「ワンちゃん」は面白く読んだけれども、わたしの感じた面白さは、それが見慣れない中国の話題がたくさん盛り込んであったからなわけで、これがたとえば中国語で書かれて第三者の手で日本語に翻訳された小説だったとしても、面白さは変わらないんじゃないだろうか。でも、翻訳された小説は、日本の新人賞の対象にはならない。うーん。文藝賞が兄弟で書いた小説を受賞させたように、一人で書いたのじゃなくてもいいっていうならさ、外国人+翻訳家のタッグによって生まれた日本語小説が、日本の文壇に乗り込んだらどうだろう。目新しい小説が、日本の小説家としてデビューを果たし、芥川賞を獲り、既成のやり方で退屈な小説を書き続けてきた小説家たちはみんな大慌て!なんてことが起こったら面白いのにね。まあ、日本語を操れるかどうかも、日本の文壇では重要な作家の手腕のひとつなんだろうけどね。などと、うだうだ考えたりしたこともあって、ああぜひ実際に話を聞いてみたいと思って出かけたのでした。
 青いワンピース、こざっぱりとした都会的な服装。ひとなつっこい顔で笑いながら、少しだけ舌足らずだけど流暢な日本語で話をしてくれた。今後、中国語で小説を書かないのか、と聞いてみたかったけれど、質問に当てられなかった。わたしの好きな中国人の小説家、虹影さんは祖国を追われてイギリスで執筆活動をしているけれど、中国では小説が自由に発表できないんだろうか、なんてことも聞いてみたかったけれど、講演会という場で聞くにはそぐわない気もして、自分で調べようと思った。講演を聞いて思ったことは、言葉がどうこうというよりは、彼女自身が日本に興味が向いていて日本の読者に読んでもらいたがっているのだと思った。それが彼女の武器なんだろうなと思った。
 講演に一緒に行った子は、揚逸さんが文学界新人賞を獲ったまさにその回で、最終候補になって敗れた子だ。ひょんな縁で、友人になった。2年前、わたしがすばる文学賞の三次を通過したけど最終候補に残らなくて悔しい思いをした回に、最終候補に残っていた子でもある。わたしより才のある子だけど、デビューは、まだ。僻むことも奢ることもなく、ひっそりと情熱を燃やして書き続けている。
「正直、嫉妬した」
 揚逸さんにではなく、泉美さんに、と彼女は別れた後メールでそっと告白した。本が出るなんてうらやましい、と。でも、わたしは、ぎらりと光る刃のような、物語への狂気を持つ、彼女に、いつも嫉妬している。やがて、一緒のフィールドに立つんだろう。奢っている暇など本当にない。