川端康成特集

芸術新潮 2007年 02月号 [雑誌]

芸術新潮 2007年 02月号 [雑誌]

 芸術新潮、2007年の2月号です。本屋にはないです。図書館で見っけた。芸術新潮とか読んだことないけど、うおー、川端康成じゃん!と思って。川端康成は、かなりクレイジーな古美術品収集家だったらしい。知らなかった。この雑誌では、その収集品の写真やエピソード、他の作家が語る川端康成がどっぷりと特集されていて、彼の人となりがよく分かる一冊になってました。なんか芸術新潮っていうよりか、ほぼ作家特集みたいな。

 美術品収集のためなら病院を抜け出してでも買ったり、ノーベル文学賞の賞金2,000万を手に入れて勢いづいて買い込んだ美術品は結局賞金の5倍の額だったという伝説があったり、美術品買って金払わなかったり、伊豆の踊り子を書くのに旅館に3年いて、1円も入れなかったりという伝説があったり。

 すごい神経の太さ。というか、もはや常人離れしている。お金とか関係なかったんだろうな、彼には。美術品も収集するのが趣味なわけではなく、執筆が進まなくなったら何時間も眺めて愛でたり。古美術品を眺めているときが、生きている心地がするんだそうだ。その愛し方は尋常じゃないし、怖いくらい純粋だと思った。

 何となくだけど、わたしは川端がもっと凡人くさいと思っていた。やっぱりあれだ、奇人変人天才なんだね。

 川端康成の小説は、きんと澄んでいてシンプルでストイック。読んだときは、やっぱりすごいって思うんだけど、他の作家と比べたときに飛びぬけた感銘を受けたという記憶はない。何冊か読んだにもかかわらず、なぜ川端がノーベル文学賞なのか分からなかったんだけど、それはわたしの心が雑音でざわついていたせいかもしれない。もしかしたら、その研ぎ澄まされたシンプルさは、受け手側の心がざわついていたら本当には楽しめないんじゃないだろうか、わたしが雑音だらけだったせいじゃないんだろうか、なんてこの特集を呼んで思った。

 古美術を愛し、美術評論家も驚くほどの慧眼を持ち、常人の善悪とはかけ離れた独自の基準を持っている。そんな彼の姿を知ったら、もう少し静かに作品を読めるようになった気がする。もう一度読んでみようと思った。

 作家の保坂和志さんが、川端の近所に住んでたらしく、ノーベル賞受賞インタビューのテレビ中継で聞こえる子供の声は自分だって言ってるのが面白かった。あと、まだ有名になっていない若い頃の草間弥生さんの作品を川端が買ってたり。川端といえば遠い昔の作家というイメージなのに、今まだ現役のいろんな表現者とのやりとりがあって、そのエピソードのすべてが何だかとても貴重で同じ日本にいたんだなあと身震いするような気分になる。そうそう、デスマスクの写真とかあるよ。すごいなあ、この号。小説好きにはお宝だ。あ、あとノーベル文学賞の賞状の写真も。初めて見た。ノーベル賞の賞状と箱はその受賞者ごとに意匠が凝らされるらしい。うわー、欲しいなあ。ノーベル賞

 ちなみにバックナンバーは売り切れてるそうです。興味のある人は、アマゾンの古本コーナーでお早めに。