「文学界」買った

 文学界の選評はいつも辛辣だ。たとえ受賞作でも拍手で送り出すわけではなく、渋面で仕方ない将来の可能性を買って受賞させてあげようと言わんばかり。それでいいんだと思う。だって新人だもん。今から満点だったら、つまらないじゃん。大げさな目を引くだけのタイトルや、○○が大絶賛という帯やら、誇大広告で盛り上げられた書店にうんざりするわたしは、この選評を読むと文学の良心を見るようで何だか落ち着く。もちろんここで何を言われようと、デビューしてしまえば華々しく宣伝されるんだけど。期待の新人、○○が褒めた、なんてね。

 でも、自分が最終候補者だったらと思って読むと辛辣すぎてつらすぎる。舞台袖で安穏としてるわたしは、彼らとまだまだ大きな隔たりがある。最終候補に辿り着いているだけで本当にすごいことなんだなと思う。 今回の文学界は、受賞作一作のほかに選考委員奨励作が二作載ってるから、かなりお得。まだ一作も読んでないけれど。

 ここから、文学界に出す用に考えてる自分の小説の話ですが。わたしはいつも主人公の影が薄くなる。他の登場人物は生き生きとしているのに、主人公一人、魅力がない。どうにかしたいとずっと思ってた。で、ふと、主人公の影が薄くなるのも、ついつい物語が長くなるのも、登場人物が多いせいじゃないかと思った。思い切って二人にしてみた。そうしたらいろいろな不自由が出て、そのせいで濃密になった。ふっと気を抜いたとき別の登場人物を登場させそうになって、その瞬間、うわあーって気がついた。これだ、これこれ。わたしは主人公の中に込めるべき要素を、他の登場人物に分担してしまうくせがあるみたいだ。要素ごとに人物を出してきて分担してしまう。だから主人公が手持ち無沙汰で空っぽになってしまうんじゃないか。

 という仮説を検証するために、今回は敢えて人物二人縛りで書こうと思いました。上手く書けるかな。新人賞の作品は「挑戦」がないといけない、とよく言われることだけど。挑戦してみようと思う。 うん、まだ一文字も書いてないけど…!この書けるかどうか分からない途方もない感じがいいじゃないか。わくわくする。