I am you.

 一人称の小説を書いてみたら主人公が一番面白くない人間だった、というのが今までの小説の悩みでした。主人公以外の脇役は生き生きと個性的なのに、主人公は何だか空っぽ。透明で、作者の目に徹してしまい、中身がない、そんな主人公になってしまうのが悩みだった。「わたしは、」と書いた途端、何も続かなくなってしまっていた。だから一時期、「僕」という主人公で書いていたし、Folio時代は「彼女は」と三人称でひたすら書いていた。でも本当は、生き生きとした個性的な一人称の「わたし」の小説を書きたかったのに、どうしたらいいのか分からなくて途方に暮れていた。

「わたし」を書かなきゃって思ってたら、自分を守ったり格好つけたり見えないことがあったりで、なかなか生の声が出ない。それより何より一番の弊害は、主人公がわたしだからと思った瞬間、その主人公がどんなやつなのか考えるのをさぼってしまう気がする。主人公以外の人物だったら、手を変え品を変えエピソードを変え絡む人間を変え、こいつがどんなやつか見極めてやろうって頑張るんだけど、主人公は自分なんだと思った途端、それをしなくなる。だから一人称の主人公が一番手抜きで、魅力のない人間として描かれてしまうんだろう。

 どうしたらいいだろうって悩んで「わたしは」「わたしは」って頭を抱えてた。でも最近何かちょっと違うなあと思い始めた。「わたし」を忘れるところから始めなくちゃいけないんじゃないか。そして主人公だって、他の登場人物と同じように、たくさんのディテールを積み重ねてふくらみのある人物を一から作っていかなきゃいけないんじゃないか。というわけで、現在、ある物語の「わたし」がどんな女なのか、せっせと探り中です。一文字も書いてないけれど、それさえ分かれば物語はできたも同然であとは書き写すだけ。文学界に出したいな。初の百枚。百枚という枚数をまだちゃんと書いたことがない。呼吸を掴みたいなあ。