育てる

 物語の成長する時間を見誤らないようにしなきゃ、と思う。賞の締め切りや枚数や傾向ばかりに支配されて、捻じ曲がって不自然な成長をしてしまわないように。今まで書いた200枚はどれも一ヶ月足らずで書いてるから、一場面(5枚、日記に連載してるくらいの長さ)が半日しかかかってない。その弊害を感じる。ストーリーの広がりが少なくて、一本道なのはそのせいだ。今、書いている話は、一場面3、4日かけている。全体のおおまかなストーリーは出来ていて、いつでも書けると思っていたんだけど、忙しくてちょっと書かなかったら、自分でもわくわくするようなデティールが沸いてきて、各場面が豊かになっていく。ああ、こいつ、成長に時間かかるやつなんだな、と思う。10月末に出したいとか思って焦ってたけど、よくないや、そういうの。ちゃんと育つべきものを育てて収穫しなくちゃ。焦る必要なんて全然ない。

 いろんな書き手がいる。職人のように依頼をせっせとこなす作家、毎日心と体のメンテナンスをしつつ少しずつ長編を綴っていく作家。わたしは、生きることと同義で小説を書いているなと思った。物心ついたときから物語をつづっている。大人になってふと書いた初小説でデビューしました、という人を見ては、ずっと書いてるのにデビューできない自分の凡人っぷりにコンプレックスを感じてたけど、わたしにはわたしの書き方しかできない。生活を営んで、人を愛して、誰かとおしゃべりをして、歌ったり奏でたり写真を撮ったりして、働いて、そういう生活の中でしか物語をつむげないんだろう。それが、作品として売り物になるレベルに到達するには、時間がかかるのだろう。でも一旦到達したら、きっともう後戻りはしない。だって、それ、わたしのライフだもの。いつか生み出すんだ、誰かの体になじむ物語を、誰かの生活に寄り添う物語を。

 6日はすばる発売日。初めて自分の名前が載ってないページを見るわけで、きっと泣くんだろうな。自分の実力の届いてなさが悔しくて。