賃貸宇宙


 友達に教えてもらって手に入れたこの「賃貸宇宙」という本が、わたしを魅了して堪らない。もともとわたしは人の部屋を見るのが大好きという迷惑な趣味の持ち主。片付けも出来ないくせにインテリア本を眺めては、素敵なインテリアや趣味のいい内装や掃除の行き届いた綺麗な部屋に羨望の溜息を吐く。猫がいるからペット可物件以外は住めないのを分かっているのに、賃貸情報誌を眺めていろいろな間取りを見てはとりとめもない思いにふける。女友達が家に泊まってもいいよと言えば、もう涎を垂らしそうな勢いで喜んでしまう(様子を見せると泊めたくなくなるだろうから、なるべくクールに振舞う)。

 部屋って服以上にその人の内部で、とてもプライベートで、秘密めいた空間だと思う。人に見せるように片付けた部屋よりも、雑然とした普段そのままの状態のほうがより赤裸々だ。この文庫サイズの写真集には、東京や京都や大阪の賃貸アパートに住む若者の部屋がいっぱい納まっている。インテリア雑誌のように整然とした部屋はほとんどない。多くは雑然としていて汚くて常識では考えられないようなスタイルの生活をしていて、その当人もサラリーマンなんて人は少なく、表現家だったりフードルだったり劇団員だったり職人だったりイラストレーターだったりで自由気ままな生活をつむいでいて、その雑然とした部屋の中に居心地よさそうに座っている。わたしもいい加減部屋が汚いが、彼らの部屋はさらにその上を行く。うちの母親が見たら卒倒しそうな写真ばかりである。

 でもこの部屋に象徴される彼らのライフスタイルを眺めていると、自由になる。
 朝早く起きてコーヒー入れて朝食をきちんと食べて、電車に揺られて出勤してくたくたになって深夜に帰っても、片付いた部屋でソファに深く腰掛けながら雑誌をめくって音楽聴きながらほっとくつろぐ…なんて生活や、専業主婦で毎日掃除機をかけ、体に優しい手料理を作り、近所の友達を呼んでお茶をして、整然としたインテリアで、ガーデニングもして…なんて生活がお手本だと思っていた呪縛から自由になる。

 しかし、生活感溢れる部屋の写真っていうのは、エロティックなものだなあと思うのでした。見てはいけないものを見ているからだろうな。