作りかけの物語は嘘を吐く

 作りかけの物語とコミュニケートする唯一の方法は書くことで、捕まえた断片を拾い上げ、わたしはひたすら書いていく。書けば物語は次を語ってくれる。どんな恋人どうしの間柄より濃密で秘密めいたやりとりが取り交わされ、興奮と幸せが続いていく。

 だけど、わたしが真剣に耳を傾ければ傾ける程、やつは気持ちよく嘘を吐くのだ。ごまかすのだ。取り繕い、省略し、ないものをでっちあげ、つじつまを合わせる。

 ある日、突然物語が行き止まる。ああ、嘘を吐かれたと気がつくのはそんなときで、わたしは何が嘘だったかを見つけるために来た道を引き返さなければならない。にやにやしながら分岐点で待っていた物語を怒ってもしょうがない。やつだって、何もかもどうでもよくなって投げ出したくなったり、からかってみたくなったり、試してみたり、面倒くさくなったりするものなのだ。わたしの役目は、ただ、しんぼう強くあることで、やつをなだめすかして、真実のピースを並べて突き付けて、本当の物語を聞き出すこと。

 焦る必要はない。きっと書ける。