第5回小説講座終わりました

 洛翠舎での小説講座も5回目となりました。今回も、作家志望の方やら、普段は文章をあまり書かないけど興味があるという方やら、新聞記者さんやら、本当にいろいろな方々が参加してくれました。
 今回はエッセイに挑戦してみました。エッセイって、みんなが興味を持てるような話題について書きながら、自分のことを語っていく文章の形なんじゃないかとわたしは理解しています。誰もが共有できる話題を取り上げることで、読み物として多くの人が興味を持ってくれる。でも、その話題そのものを論じるのではなくて、その話題と自分ならではのつながりを探して、自分らしい文章を書いていくのがエッセイじゃないかな、と。
 今回は「好きな食べ物」というテーマを考えてみました。なるべく平凡でありきたりなテーマにしたかった。平凡なテーマで、普段の会話ならひとことで終わってしまうような内容なのに、ちゃんと自分に向き合って文章にすることで、「その人ならでは」が見えてきたら面白いんじゃないかなと思ったのでした。そのためには、食べ物がいかにおいしいか、どれだけ行列ができているか、という一般論を延々と書いても意味はない。なるべく、いろいろな方向からテーマを弄ってみて、自分にしかないエピソードや思いを探していく。
 出来上がったものは、みんな個性豊かで面白かったです。奇をてらわなくても、特別な経験をしてこなくても、みんなそれぞれに面白さを持っていて、うまくそこを掘り当てられたら、いい文章が書けるはずだ、と考えていたのだけど、予想以上に面白かった。受講者さんにめぐまれました。
 講座をどう構成するかは、短編小説を書くのと同じくらい、いつも悩む。何を伝えればいいのか、どうやったら伝わるのか、どんな作業をしたら体験してもらえるのか。考えつくして、しゃべる内容を文章に起こして、何度も見直して、これでいい、と自分では思っていても、本当に伝わるのか、楽しんでもらえるのかは、終わってみるまで分からない。小説を読んでもらうときと同じですな。だから、楽しかったと言われたら心からほっとする。伝わったという大きな喜びを味わう。いつも講座を受講してくれた方々から刺激をもらっています。
 文章を書くことは、自分に向き合うことだと思う。そして、文章を人に見せることは、むき出しの自分を相手にゆだねることだと思う。自分に向き合うと自己嫌悪に陥るし、むき出しの自分を人に見せると、傷つくことの方が多いんだけどね。でも、誰かに届いたら、その傷ついたのが帳消しになって、魂がぷるぷる震えるほど嬉しい。受け取ってくれて、ありがとうございます。
 わたしは、小説家として、まだまだだけど。小説の書き方も悩みだらけだけど。でも、小説の面白さを、物語のすばらしさを、文章を書く楽しさを、伝えることはできるんじゃないかな、と思っています。第6回もやりますよ。大体、2ヵ月おきくらいにやっています。

photo:みゆうさん