中国人女性作家の小説
今回の文学界新人賞受賞者は中国人である。そんなニュースを聞いて、わたしが想像したのは、漢語みたいな擬古文みたいな漢字だらけの文章。そして三国志みたいな昔の中国を舞台にした歴史物。今日ようやく受賞作を読んで、想像と全く違ってたことが分かりました。受賞したのは40代の女性の方。学生時代に日本に留学し、以来日本で働いている。日本語歴は20年ほど。「ワンちゃん」というタイトルからうかがえるように、素朴でどこかユーモラスで流暢な日本語の小説だった。
女手一つで洋服の商いをしているワンちゃん。彼女の稼ぎを当てにして遊んでばかりな上に浮気もしていた夫と離婚。でも男は離婚したのにどこへ引っ越しても金をせびりにくる。前夫の呪縛から逃れるために、外国に行こうと思いつめたワンちゃんは、中国女性と日本男性の見合いパーティーに参加し、冴えない無口な日本人男性と結婚するがそこに愛情が生まれるわけでもなく、次第に重苦しい夫婦生活にやりきれなさを感じる日々。お喋りの姑が可愛がってくれるのが唯一の癒しだが、彼女も病に倒れてしまう。
こんな中国人女性が主人公なのです。このワンちゃんがとても魅力的だった。端から見たら八方ふさがりな耐え難い状況なのに、それを打開しようと次々行動していく、とても能動的な主人公。日本に来て夫との生活に限界を感じ、一人立ちするために仕事を探し始める。かつての自分がしたように、中国女性と日本人男性のお見合いツアーを企画する仕事を立ち上げ、それを立派にこなしてみせる。このお見合いの様子も何だかいろいろ考えさせられるし、素材が抜群に面白い。そんな異文化交流の様子と、行動的な主人公に引っ張られるように、次々とページをめくり、百枚の小説はあっという間に終わった。主人公の内面も過剰でも不足でもなく語られて、余韻も見事だった。でもこれ、やっぱり三百枚とか書く用の素材じゃないかな。突然打ち切られた感がある。登場してきた彼女たちはみんな、もっと語られたいと思うな。まあでもこの受賞に拍手。今後が楽しみです。
ところで、中国人女性の書いた小説は面白い。今の日本の女性作家には書けないものを書いているから。日本人の女の子たちは(というか、わたしは)、何だかいつも守られている。甘やかされ、守られ、束縛され、彼女たちの悩みといったら、自分がふわふわ浮いていてどこにいるのか分からないというようなものな気がする。それはそれで切実なのだけれど、それも何だか読み飽きた。中国の女性は、守られていない。自分が必死で守らなければ誰も守ってくれないという、日本人の女の子とは質の違った切実さがある気がする。生き抜く、それがひしひしと伝わってくる。
わたしが一番好きな現代作家、虹影も中国人。
- 作者: 虹影,浅見淳子
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わたしには想像もつかないような悲惨な境遇や不条理な状況を、等身大の女性が、しなやかに力強く自分の力で生き抜いていく。そんな小説を読んでいたら自分が恥ずかしくなる。わたし、何してるんだろうと。そして何だか力をもらう。
あと、余談ですけど、凛としてて美しい姿にも惹かれました。すばる文学カフェで紹介されてますので、よかったら。
http://subaru.shueisha.co.jp/html/person/p0410_1.html
(すばる文学カフェ:今月の人)
あと、ブログも見つけちゃった。中国語分からないけど。写真見れて幸せです。
http://blog.sina.com.cn/hongyinghongying(火狐虹影的BLOG)
重いので注意。彼女は中国を出て、イギリスで作家活動をしているのです。英語ではもっとたくさん本が出てるのに、日本語訳は二冊のみ。もっと誰か訳してくれないかな。
韓国人女性の書いた短編というのも面白い。彼女たちの書く主人公たちは今にも爆発しそうな怒りをじっと腹の底に抱えている。だから、淡々と日常を書いているだけなのに、緊張を孕んで何が起こるか分からない。いい意味で怖い。
これ、おすすめ。アンソロジーなので、いろんな作家の短編が読めます。
6 stories シックスストーリーズ 現代韓国女性作家短編
- 作者: キムインスク,コンジヨング,ハソンラン,キムヒョンギョング,ソングキョングア,安宇植,鷺沢萠
- 出版社/メーカー: 集英社
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彼女たちには書くべきものがある。
自由なわたしは、自由であるがゆえに何を書いていいのか迷うのだと思う。自由をもっと有効に使わないと。だらだらと醜く肥えている場合じゃない。