削ぎ落とす

 原稿用紙三百枚を費やしても、語れるのはたった3、4時間ほどだ。もちろん、小説は原則的には枚数に限界なく書くことが出来るけれど、いるものもいらないものもだらだらと続くそんなもの読みたくないと思う。人生みたいだし。自分の人生だけで手一杯だし。限られた容量の中で何かを語らなければいけない。全ては削ぎ落とし磨き上げる作業にかかっている。
 今までわたしは、思いつくエピソードを並べて枚数を増やしていく、そんな書き方をしていた。でも今回はそれでは面白いものは出来ないと思った。平凡でありふれていて誰もが経験していて、でもだからこそ誰もが読みたがる恋愛についての小説を書きたいから。 百年を一冊の本に込めた人もいれば、三分間の話を一冊の本に込めた人もいる。何を書き何を書かないかを選び、削ぎ落とし磨き上げる。ここからが、作者の本当の仕事なんだと思う。