走る

 雨上がりの夕暮れを走った。
 50才過ぎてなお数々のシティマラソンに挑戦し続けている知り合いのアマチュアランナーは、修士論文に煮詰まったときに走り始めたのだと言う。論文を書いているときは頭ばかり疲れてバランスが悪かったから、体を酷使することでよく眠れたし、なぜか頭もすっきりして再び取り掛かることが出来たから。
 それは何だかとても人間の体の道理に適っているような気がした。
 わたしも毎日頭ばかり疲れさせている。
 走りながら変わりたいと願う。もっと剥がれ落ちて美しくなりたい。シンメトリーな植物と躍動する動物との無心の美に近づきたい。こんなことを考える余裕があるのは、まだまだ走り足りない証拠だろう。
 変わりたいと唇から零す前に足を動かせ。